「悩み?」

先生がオレに相談してくる内容なんてヨハンのことしか思いつかない。
オレが頷くと、先生はいそいそと近寄ってきた。

「実はですねぇ〜、先生はですねぇ〜」

ガシッと腕を掴まれた。
驚いて目を見開くと、先生がウルウルと涙を浮かべてオレを見上げてくる。

「写真を撮る時いつも目を閉じちゃうんですにゃ。お目目パッチリで写りたいのに・・・」


・・・。


先生・・・いいじゃん、別に・・・。
アンタ、元々糸目だし分かんないって・・・。
ていうか、ヨハンならまだしも、そんなに写真撮る機会ってあるのかよ、マネージャーに・・・。

「学生時代の記念写真とかどうだったんだ?」

ヤバ!
うっかり返答しちゃったよ。
案の定、先生が物凄い勢いで頷いてきた。

「そうなんだにゃ!そうそう!幼稚園の頃からずっと目を瞑っていて、たまに目を開いているとフレーム落ちなんだにゃー。十代くん、どうして分かったのにゃぁ〜!?」


・・・。


いや、別に・・・。
どうでもいいような気もするんだけど。
うっかり口から零れただけだし。
でもまぁ、先生が喜ぶ返事が出来ていたなら結果オーライ。

「にゃ〜、何だかスッキリしちゃいましたにゃ!先生今、飲みに行きたい気分なのですにゃ」
「それはオレに付き合って欲しいって事ですか?」

そう聞くと、先生が大きく頷いた。


・・・。


まぁ、いつもヨハンだけじゃなくオレも世話になってるし・・・。
少しぐらいなら付き合ってもいいかな・・・。

「分かりました、先生。今から行くんですか?」
「さっすが、十代くん!話が分かる子にゃぁ」

先生がヨシヨシとオレの頭を撫でる。
オレたちはヨハンとユベルに外へ出ると言って、街に繰り出した。










・・・。










・・・・・・。











ガンガンと頭が割れるような痛みで目を覚ました。
どうやら、二日酔いのようだ。

「ここ・・・は・・・?」

自分の今いる場所がいまいち分からず、辺りを見回す。
目の前には一面鏡張りの壁があった。
どこだ・・・、ここ。
体を起こし、確認しようとした瞬間・・・。

「うぐぅ・・・ッ!」

体の奥に異物感。
そして、物凄い痛みが足の指先から脳天まで駆け抜けた。


カチッ。


横からジッポーの音が聞こえた。
続いてタバコの微かな匂い。
横を見ると、優雅にタバコを咥えた先生が寝そべっている。


??


何だ、これ。
どういう事だ・・・?

「昨晩は熱い夜をありがとう・・・十代。素敵だったよ・・・」


え?


「私は、この夜を忘れない・・・」


は?


混乱するオレを見ながら、先生がクスリと笑う。
ズクズクと痛む下腹と困惑に頭を抱えたオレの視界は暗転するのだった・・・。